デカンタとカラフの違い!酸化防止剤入りのワインでもカラファージュの効果はある?

2018年5月24日

ワインを飲む時に、デキャンタ、デカンタ、カラフという名称の食器を見聞きする。でも人によって呼び方や捉え方が微妙に異なる。この違いを明確にしたいと思ったので少し調べた。

デカンタの役割や目的

底面の広いデカンタ
デカンタ

ワインや水を飲む時に使用する、底面が広くて口が狭い、テーパーと曲線の付いた容器のこと。ガラス製が多く、三角フラスコのような形をしている。

デカンタの役割・目的は主に2つある。

1. ワインを開かせる

ワインをボトルからデカンタに移して空気に触れる表面積を増やすことで、特に若いワインの酸味、臭み、渋味を和らげることで香りや味を良くする。ワインの風味が高まることを「ワインが開く」と言う。

「デカンタやカラフを使うのはワインを酸化させることが目的」だと言う人もいるが、実際には「ワインに含まれる余計な臭み成分を気化・蒸発させて飛ばす」と表現した方が適切。1
現に、多くのデカンタは空気に触れたワインが過度に酸化して劣化しないように、空気を遮断するためのコルク栓など「ストッパー」が付属している。2

30分から4時間ほどデキャンティングし、熟成年数が短いワインほど長時間のデキャンティングをした方が良い

2. 沈殿物と上澄みを分離する

異物をグラスに入れないようにするために澱などの沈殿物・堆積物と上澄みとを分離させる。若いワインには沈殿物が少ないため、古いワインを飲む際に役立つ。熟成期間の長いワインに見られる澱(おり)の正体はタンニン、酒石酸の集まり、酵母の死骸などで、ワイングラスへ一緒に注ぐと味を損なう原因となるので、これを分離する必要がある。

デカンタの形状には、三角形で底面が一番広いものと、少し上のほうが一番広くなっているものがある。
沈殿物を除去する目的を考えると、少し上が広いタイプの方が、注ぐ時に沈殿物がグラスに入りにくく、上澄みだけを抽出しやすい

工業機械等でもデカンタ式という言葉が使われ、「沈殿物や固形物と液体を分離する容器、一時的な容器」という意味として使われており、ワインを飲む時に使うデカンタとも用途や語意が一致する。語源等については後述する。

  1. ワインボトルを立てて24時間放置し、澱をボトルの底に集める。(普段立てて保管しているなら、この工程は必要ない。)

  2. デカンタにワインを移す。

  3. ワインを開くと同時に澱を更に沈殿させる。

  4. グラスに静かに注ぐ。

総合的に見て、澱を除去する機能があることからデカンタは古いワインに適している。もちろん若いワインにも適していて、オールラウンドに使える。

亜硫酸塩などの酸化防止剤が入ったワインでのデキャンティング・カラファージュに効果はあるのか?

現代では、多くのワインには亜硫酸塩などの酸化防止剤が入っている。そこで疑問に思うのが「デカンタに入れるのは空気・酸素に触れさせて、酸化させるためでしょ?酸化防止剤が入っていたらデキャンティングしても意味ないんじゃないの?」ということ。

しかし前述の通り、「デカンタを使うのはワインを酸化させることが目的」だと言う人もいるが、実際には「ワインに含まれる余計な臭み成分を気化・蒸発させて飛ばす」と表現した方が適切。1
現に、多くのデカンタは空気に触れたワインが過度に酸化して劣化しないように、空気を遮断するためのコルク栓など「ストッパー」が付属している。2

つまり、ワイン自体が酸化しなくても臭み成分はちゃんと気化するので、酸化防止剤が入っているワインでもカラファージュの効果は得られる
というかデキャンティングやカラファージュを長時間すると必ずセットで付いてくる「酸化するリスク」だけを防ぐことが出来るので、むしろ都合が良いとも言える。銘柄によるかもしれないが。

デカンタとデキャンターの言語学的な違い

Decanter
フランス語ではディコンター

décanteurで/dekãtœr/と発音し、「傾斜分離器」を意味する。
décanterで/dekɑ̃te/(ドゥコンティー)と発音する言葉もあるが、「注ぐ」や「酌む(くむ)」という意味の動詞。発音記号のɑ̃は鼻濁音なので「ア」ではなく「ン」に近い音となる。

ただし多くの翻訳では英語のDecanterはフランス語のCarafe(カラフ)だと翻訳される。

イギリス英語ではディカンタ or ディカンター

Decanterで/dɪˈkæntə(r)/と発音し、最後の[r]は発音しないこともある。

アメリカ英語ではディキャンター

スペリングはdecanterでイギリス英語と同じだが、/dɪˈkæntər/(ディキャンター)という発音をするので、最後の音は必ず伸ばす。

語源の元を辿ればdēcanthreというラテン語。3

ディカンテイションとドゥコンタージュとディキャンティング

Decantation

デカンテーション、デキャンテーション。Decant(静かに別の容器へ移す)という動詞の名詞形。イギリス英語ならディカンテイション、アメリカ英語ならディキャンテイションの方が発音としてはネイティヴに近い。
日本語では傾瀉(けいしゃ)と言う。

Decanting

ディキャンティング。decantを動名詞として使う時になどに使う。これをDecantering(デキャンタリング)と呼ぶ人もいるが、英語辞書には存在しないので、誤用だと思われる。あくまでingは[r]ではなく[t]に掛かり、[er]は消える。
フランス語ではDecantageという。

Decantage

英語のDecantingと同義。フランス語で傾瀉(けいしゃ)を意味する。
発音は/dəkɑ̃taʒ/で、本来の発音はデカンタージュよりドゥコンタージュに近い。英語辞書でDecantage(デカンテイジ)と検索しても出てこない。デカンタージュという発音だと、イギリス英語とフランス語を混ぜた発音になっているので語学的にはドゥコンタージュかデキャンティングと呼ぶのが適切。デカンタージュが他の言語の発音なのかについては特定できなかった。ちなみにイタリア語だとdecantazione(デカンタジオネ)となる。
「ə(シュワー)をデではなくドゥと発音するのもどうなんだ」というご批判があってもおかしくないが、曖昧母音なので日本語でこれ以上表現のしようがないのでご勘弁を。

カラフ、カラファージュの役割や目的

縦にスリムな、レモン水の入ったカラフ

デカンタに対して、カラフの目的は主に次の1つしかない。

1. ワインを開かせる

デカンタと同様に、空気と触れさせて「ワインを開かせる」ことが目的。ただしデカンタとは違って沈殿物と上澄みを分離させる機能や目的はなく、テーブルで場所を取らないために縦にスリムに作られている。そのため、沈殿物が存在しないアルコールドリンクや水差しとしても使う。4

また、食事の際にテーブルを華やかにするための装飾を兼ねている。

ちなみにOxford Learner’s DictionariesによるとDecanterは「ワインやその他のアルコールドリンクを移し替える容器」とだけあり、Carafeとの明確な違いについては触れていない。5

デカンタでディカンテーションやドゥコンタージュと言うのに対して、カラフではカラファージュという言葉を使う。

Carafage

フランス語。カラフでワインなどの飲み物と空気とを触れさせること。デカンタのように「沈殿物と上澄みとを分離させる」という意味合いは持たない。
/ka.ʁa.faʒ/(カラファージュ、キャラファージュ)と発音する。

総合的に見て、カラフは若いワインやその他のドリンクに適している。少なくとも古いワインには適さない。

カラフェという言葉は存在しない

英語ではCarafe

/kəˈræf/(カラフ)と発音し、最後に小さい「ェ」は付けない。

フランス語ではCarafe

/kaʁaf/(カラフ)と発音し、最後に小さい「ェ」は付けない。

イタリア語ではcaraffa

/karaffa/(カラファ or カラッファ)と発音する。

なので、少なくともここに挙げている言語に於いては、カラフェという読み方はありえない。英語でもカラフと読み、辞書にも存在するが、フランス語に則っているとみられる。